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鏡に金針 [絵付きSS]

雲ひとつ無い満月の夜、漣ひとつ無い湖面に銀の糸が投げ込まれる。
僅かな音と共に銀糸の先の金針が小さな波紋を描き続け。
ただ静かにその様を見つめていた

「坊主ではないか」

声の主は獲物のない魚篭を覗き込み言う。

「そうですね」
「言っておくが貴様の分は無いぞ」

その手にある魚篭には溢れんばかりの川魚。1人で食べるには多いであろうに。

「構いませんよ」

「食を抜いて命が尽きるなら私とてとうの昔にやっている」
「そんな気はもうありません」

風もなく鏡のような湖面には変わらずただ一つの小さな波紋。
水面より見える金針は満月の光を受け小さく、それでいて強く輝く。

「おかしな奴だな、此処には魚などおらん」
「川は好きではありませんから」

流れ続ける川に投げられる金針。
それに逆らいそこに在り続ける様が自分に重なるからだ。

波ひとつ無い湖面を騒がせ続ける小さな金針。
それは自分ではない誰かにとてもよく似ていて。

「…美しいな」
「そうですね」


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